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【無形資産とは】国内における情報開示の進展も含めて解説

2023.08.24
近年、投資家による環境・社会・ガバナンスを考慮するESG投資が拡大している中、企業のリスクと機会に対する関心も高まってきています。 この背景の一つとして、世界で経済成長の決定要因が研究開発・知的財産・ブランドなどの無形資産の蓄積へとより重視されるようになり、それを活かすための人材の重要性が増していることが挙げられます。今回は、その無形資産について解説したいと思います。
無形資産とは
概要
無形資産とは、土地や建物、工場の機械設備などの有形資産とは異なり、人的資本や経営プロセスなど、文字通り、形を持たない資産のことを指します。これは、長期にわたり会社の収益力の要因となります。
例えば、以下のような例が挙げられます。
- 知的財産(特許権、商標権などの法的権利)
- 人的資産 (従業員の持つ技術や能力など)
- 市場関連資産(ブランドや販売権など)
- 顧客関連資産(顧客リストや顧客基盤など)
無形資産の重要性について
無形資産は、企業や組織にとって競争優位性を創出するという重要な役割を果たしています。例えば、企業のブランド価値が高ければ、その商品やサービスに対する信頼感が高まり、売り上げを伸ばすことができます。また、特許や著作権があれば、競合他社との差別化を図り、ビジネスの拡大や新たな市場参入を図ることができます。
そして、無形資産は、企業価値を測定するための参考(未来の見通し)としても利用されます。企業価値には、有形資産の価値だけでなく、無形資産の価値も含まれます。
このように、デジタル化の進展により、情報や知識がビジネスにおいてさらに重要な役割を果たすようになりました。
無形資産に関する情報開示
日本と海外の比較
最近では日本において、非財務情報や無形資産の情報開示化が進展していますが、米国や欧州の企業と比較すると未だに不十分であると言えます。
まず、経済産業省によって発行されている通商白書(令和4年度版)によると、先端技術産業の市場規模拡大から示唆される無形資産投資の重要性について以下のように詳述されています。
Elsten and Hill (2017)によれば、S&P500(米国の代表的な株価指数)に採用されている企業の市場価値を要因分解すると、2015年時点で84%が無形資産であり、欧州のS&P Europe350に採用されている企業の市場価値は71%が無形資産としている一方で、日経225(東証上場銘柄のうち、代表的な225の銘柄)に採用されている企業を含め、日本では31%と企業価値に占める無形資産の割合が比較的低いことが示されています(下記図参照)。
以下の通り、新興技術に関連する市場の規模が急激に拡大することが見込まれる中で、企業がビジネス機会を見出していく上では、新たな事業開発に投資していく等といった無形資産投資を増加させていくことは重要であると報告されています。また、日本の企業価値に占める無形資産の割合が比較的低いため、同割合を高めていったり、無形資産に関する情報の開示を改善していったりして企業としての存在感を打ち出していく必要があると考えられます。

このように、米国は、S&P500上場企業の市場価値において、無形資産価値が有形資産価値を上回る状況にあります。これは、市場における企業価値が企業の貸借対照表には載らない知財・無形資産等により形成されていると言い換えることができます。
国内の動向
コーポレート・ガバナンスコードの改訂(2021年6月)
この状況を受け、日本では、2021年6月のコーポレート・ガバナンスコードの改訂により上場企業は、
- 「知財を含む無形資産への投資について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつわかりやすく具体的に情報を開示・提供すべき」であり(補充原則3-1③)
- 「取締役会が、知財への投資等の重要性に鑑み、経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべき」である(補充原則4-2②)
と提言されました。また、知財投資戦略の開示、取締役会による監督も明記されました。
まとめると、この改訂により、企業は無形資産の投資や活用についての戦略の構築と実行を推進していくと同時に、戦略の開示を通じて、企業価値を向上させることが期待されています。
「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン Ver.2.0」(2023年3月)
そして、内閣府知的財産戦略推進事務局、経済産業省産業資金課事務局が立ち上げた「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」から2022年1月28日に「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」のVer.1.0、2023年3月27日にそのVer.2.0が公表され、企業の無形資産の投資・活用戦略の有効な開示とガバナンスのあり方のガイドラインが示されました。
このガイドラインでは、「価格決定力・ゲームチェンジにつなげる」、「ロジック/ストーリとして開示・発信」することなどが原則として策定され、それをもとに「知財・無形資産の投資・活用のための企業における7つのアクション」と「企業と投資家・金融機関のコミュニケーション・フレームワーク」も置かれています。
このガイドラインを参照して、知財等の投資・活用戦略を通じた企業価値の増大を実践することが期待されています。
まとめ
- 無形資産とは、人的資本や経営プロセスなど、文字通り形を持たない資産のことを指す。
- 具体的には、知的財産(特許権、商標権などの法的権利)、人的資産 (従業員の持つ技術や能力など)、市場関連資産(ブランドや販売権など)、顧客関連資産(顧客リストや顧客基盤など)が挙げられる。
- 無形資産は、企業や組織にとっての競争優位性の創出、競合他社との差別化、企業価値を測定するための参考(未来の見通し)として役立つ。
- 米国や欧州と比べ、日本では企業価値に占める無形資産の割合が低い(=海外先進企業に遅れをとっている)。
- コーポレート・ガバナンスコードの改訂(2021年6月)や「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドラインVer.2.0」(2023年3月)が発表され、知財等の投資・活用戦略を通じた企業価値の増大を実践することが期待されている。
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